syrup16g tour 2015 「Kranke」 2015/07/09@NHKホール


2日間とも見事に雨だったわけですが(わりと本降り)、最終日のこの日、終演後になるとアラ不思議、雨は止んでいました。まるでsyrupのライブが終わるまではと、大いなる意志が働いたように感じられ、天候まで味方につけてライブを演出するとはまったくもってニクいバンドだぜと、思った次第。

2日連チャンでsyrupのライブを見るという、幸せに恵まれたワタクシですが、東京公演初日の8日が1階席で、2日目にしてツアー最終日の9日が3階席という、まったく異なる視点を運命の神によって与えられていたのです。どっちがいいかっていうと難しいんですが、バンドに近いのは確かに1階席なんだけど、ライブ(とその演出)を観るという意味では俯瞰的な視点を持てる3階席も捨てがたいなと、どちらも体験して思いました。この日俯瞰してみた思ったのは、「相変わらずセット簡素だなー」ってことです。今までに比べたらスクリーンとか使ってるし、確かに演出は力入ってるけど、でもセットはホントにシンプル。ドラムセットがほんのちょっと高くなってるだけで、あと平板ですもん。飾りなんていらねーよって感じで、そこが好き。

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この日もよくしゃべりました。ビックリした。と内容を書く前に、まずはセットリストはこちら。ほとんど初日と同じ並びですが、一部「Everything is wonderful」が「負け犬」に差し替わり、ラストが「生活」~「リアル」ではなく、「coup d'Etat」~「空をなくす」~「Reborn」になっていました。「Reborn」東京ではやらないかと思ったから嬉しかったなあ。

さてこの日は、頭っから初日の違和感もなくスムーズな出だし。非常によい感じでライブ空間に入っていけました。歌声はツアー最終日ということもあるんでしょう、疲弊した感じも見られましたが、逆にそこが生々しくてよかったです。妙な危うさというかリアリティが生まれていて、それをロック的といってしまうと良く言い過ぎかもしれませんが、嫌な感じはぜんぜんなかったです。

「冷たい掌」もサビの爆発力が獲得されていて、格段に初日よりパワーアップした印象だったんですが、何が違うんでしょう。音のバランスが違うのかな。エフェクト? 正体はよく分かりませんが。冷静に聴くとヘンテコな曲だなと思うんですが、それをライブで違和感なく披露するバンドと、なんの疑問もなく受け入れるファンという図式も幸せの形です。

「Stop brain」の前あたりですか、ふいにMCが始まります。

「いやーツアーもいよいよ最終日」って五十嵐氏。

「正直…」と言いかけて妙に間を空ける。

静まり返る空間。

「終わって良かったなあって」と安堵の息を吐きながら五十嵐さん。

場内笑うが、

「まだ終わってないから!」って中畑さんピシャリと突っ込む。確かに! まだ終わってない!

「正直ここに立ってるのが奇跡かっていうくらいに、ツアー嫌いだったんだけど」

って五十嵐さん正直すぎるわ! 確かにそんなキャラクターだけども!

「今日はもう、最後の一滴まで、拭いきれなくなるくらいまで、絞り出してやるので」

って何だかんだやる気を見せてくれて一安心(って変なライブだよまったく:笑)。

「My Song」から「明日を落としても」って落差あるヨなって思いながらも染み入りつつ、昨日のクライマックスを飾った「正常」がこの日もお目見え。すわどうなるかと期待しましたが、不思議と初日を超えることはなく。いやもちろんよかったんですが、初日の浸透力は発揮されず。続く「負け犬」~「吐く血」と、位置的には昨日の最大クライマックス(変な表現)に輝いた部分なのですが、この日はひとつ引っ込んでいる印象。

だが! この日のクライマックスは別にあったのです! それは次の「Share the light」! ノりきれないとか先日のときは書いたのですが、僕が不満に思っていたサビの爆発力が不思議にも改善されていまして、何なんだろうこれは、中畑さんのコーラスか? いったいなぜ爆発力と厚みが獲得されたのかはやはり謎なのですが、サビ(といってよいのか分からない箇所ですが)が、ちゃんとひとつ前に突っ込んでくる感じで、非常にビリビリときました。カッコいい! 実際ギターとベースとドラムだけで、よくもまあ、あんなにドスの利いた空間を作り出すものだと、その深淵さに酔いしれました。

「真空」の入り方って何パターンかあると思うんですが、この日は五十嵐さんの痙攣ギターがメインになっていたように思います。初日は中畑さんのドラムぶっ叩き。ステージ中央でよろけたようにギターをギャギャッ、ギャギャギャッって引く姿にまたシビれます。syrupの好きなライブアレンジ(っていうのか分からんけど)のひとつです。今回やってないけど「Sonic Disorder」のアレンジも好き(やって欲しかったア)。

「パープルムカデ」~「神のカルマ」~「Thank you」とほぼ間を空けずに続き、あっという間に本編終了です。やっぱ「Thank you」カッコいいすわ。ドラムがよいです。帰りの道中もなぜか頻繁に頭に上ってくるのがあの出だしのところで。音源で始め聴いたときは、やはりというべきか、違和感がありましたが、今聴いたらなんていうか、「良い曲」としか感じられません。これぞライブの力です。ライブの力で楽曲のイメージが塗り替えられました。「Thank you」は一度ライブで聴くべきではないでしょうか。キラキラと走ってる感じが、今のsyrupに似合ってます。

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そんなに喋ってねーじゃんって思うかもしれませんが、これからです。僕も当日はそうでした。「ああ今日はあんま話さない日なのな。そういう日もあるよね」って思ってました。しかーし!! ここからだ!!

アンコールでTシャツ姿で登場した3人ですが…

ななななんと! マキリン(と呼ばせてください)ことキタダマキ氏が、あの激渋クールなスーパーベーシストが! ステージの際まで進み出た! そして誇らしげに胸を張り、「オレのTシャツ見ろよ」と言わんばかりに親指を胸に突き立てる(心なしか笑ってる?)! なんだこのパフォーマンス! 

3階席の僕にはそのTシャツの文字が見えなくて本気でヤキモキしてたんですが、調べたところ「医者」と書いてあったとかないとか…(笑)。

「患者Tシャツ着たくないんだって」と五十嵐氏がギターしょいながら笑う。

「スーパードクター」って中畑さんも笑う。

スーパーベーシストならぬスーパードクター誕生(笑)。

しかしなんだ「医者」って! このために作ったのですか?? でも医者って何かマキさん似合う(笑)。

「vampire's store」って初日も中畑さんのコーラス入ってたかしら。思い出せない。でもこの日は入ってて、これがすごくいい。この曲のサビの部分ってトーンダウンするような調子があるから、そこで勢いが殺されちゃうんですよね、僕の中では。でも中畑さんのコーラスが重なることで、音の厚みが増すし、確実にそこが浮き上がってくるし、すごく曲として完成された形になると思います。この曲確実にライブで進化してます。これからもカッコよく変わりそうで楽しみ。そう考えると「To be honor」や「Thank you」もそうだけど、ツアー嫌いっていうわりには、ライブで映える曲とかライブで演ったときに盛り上がる曲とか、意識して書いてるんじゃないかって勘繰りたくなります。

「落堕」の入りもカッコよかった。あの3人でギャリギャリドカドカブリブリやってるとこ。初めてあの形聴いたの日比谷だったかなあと思うんだけど、体感的にあのときと同じくらい長い入りで、こういうの僕は何時間でも(っていうと言い過ぎだけど)聴いていたい。本当にカッコよくて気持ち良い。もうこの曲は殿堂入りして他の曲に座を譲ってもいいんじゃないかってくらいの活躍ぶりだよ、「落堕」。

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まだそんなに喋ってねーじゃんって思うかもしれませんが、まだこれからです!

2度目のアンコールで出てきた3人。

(五十嵐さんのコケたようなパフォーマンスもありつつ)定位置に着くや否や―

「じゃあ、スーパードクター、最後に一言お願いします」って、まさかの五十嵐氏からフリが!

場内大歓声!!!! キタダさんちょっと笑ってるっぽい!

でもこのまま流されちゃうんじゃないのおなんて思っていたのも束の間! 歓声が静まるのを待って、ちゃんと話してくれるマキさん!!

「えー、今日はどうも、ありがとうございますぅ」って!! 

うわおっ、ちゃんと肉声聞いたのいつ以来だ! なんか声高くね!?

「お大事に…」ってマキリン、オチまでつける!!

場内大喝采!!!!

「今日イチの盛り上がりじゃん」って笑ったのは中畑さんか? 

それを横目に見ながら五十嵐さん、場内に目配せして、ささやき声で―

「ちょっとすべってたね」だって! 

いやらしいわー(笑)。寡黙なマキリンにフッといてそれはないわあ(笑)。

思わぬいじめっ子ぶりを見せた五十嵐氏でしたが、一気にエンジン全開で何やら分からぬ雄たけびを上げて―

「coup d'Etat」さく裂!! 

こっからの「空をなくす」!! 

圧倒的にシビれる!! 

しかしホッコリムードからの落差がすごい!! 

ここからも分かるように(?)、もはや楽曲のイメージとバンドの在り様を重ねるのはsyrupには似合わないのかもなあって考えてしまいました。昔はピリピリした雰囲気でライブ演ってるときの方が圧倒的に好きだったし、ペラペラしゃべってるときは逆に嫌がってたりした僕ですが、今はぜんぜんこの楽しそうな雰囲気がすごくうれしくて、よく分からない論理だけど、ごめんなさいって言いたいです。曲は表現のひとつであって、それはそれとして受け取ればよいだけのこと。バンドの雰囲気は良いに越したことないし、曲以外の部分でそれを見せられても、それは表現とは関係ないのだと、キッチリ分けて受け取ればよいんです。だからオレは、今のsyrup、大好きです(昔から好きですけど)。ハッキリと、そう言えます。

「いやー、いよいよツアーも終わり」って話す五十嵐さん。

もうすぐ終わりだなって客席も分かってる。ちょっとさびしいからもっと話してほしいって思う。

「さっきはツアー大嫌いとか言っちゃったけど」

間。

「終わってみると、楽しかったなって」

それは終わったからじゃないのか!ってツッコミを、僕も含め多くの方がしたことでしょう。

「ちょっと、ぜんぜん関係ない話していい?」って唐突に五十嵐さん。

「友達いないからさ、しゃべる人いないんだよ、聞いてくれる人が」って自嘲(笑)。

何か各所で休止期間のこといろいろ話したからかな、一周回って開き直ったのかな五十嵐さん。うしろめたさみたいの、ないよね。

「昨日ね、帰って寝るじゃん。寝ようとするんだけど、やっぱ寝れないのよ(と、このあとゴニョゴニョいう。興奮して眠れないってことでしょう)

僕の頭には、暗い部屋で布団(ベッドではなくて断然布団)に横たわるサラサラヘアーの五十嵐隆が浮かぶ。なぜかクスリとする。

「でね、寝たり、起きたりを繰り返すんだけど、そしたらね、ついにね、あれを見ちゃったんだよ!」って興奮気味に。

何? 何を見たの?

「あの、あ、め、アレ、ん? なんだっけ? あの、あれ」

ってもどかしいわ!!(笑) アドリブなんかやっぱり。

「明晰夢! 明晰夢? あの意識はハッキリしてるんだけど、夢っていう」

「こう色とかもさ、きらびやかで、ハッキリしてて」

とここから独壇場で話し始めます―

「なんかね、こう、可愛らしい(と手で丸い形をなでるように)小動物とかさ(場内笑い)、やさしいお姉さんとかいて、キレイな景色で、お花畑とか広がってて(場内爆笑)、もう、楽園、パラダイスでさ、やった!って思って。オレもう、一生ここにいてやる!って思ったの(五十嵐さんのイメージ通り過ぎて、またも場内爆笑)

「でも、だんだんね、いやこれはヤバいって思ってきて。浦島太郎的なアレだと思うんだけど(謎の「浦島太郎的なアレ」。何となく分かりますが、ぼかし過ぎ!)。ヤバい起きなきゃつって、頑張って起きたんだけど」

「たぶんね、あのまま寝てたら―死んでたね!

大大爆笑に包まれる場内。

「でもあそこにいるよりも、今日ここにいる方が、10倍も、100倍も楽しいです」

「ホントにありがとう!」
と言って演奏に入りながら、「また来てね!」って言ってくれたように思います。

すげーうれしい言葉だった。涙出そうで。絶対また来ますから。

最後の最後に繰り出された必殺の「Reborn」は、終わりの方で客電点けるからさ、いつかの武道館を思い出してグッときてしまった。

場所も状況もぜんぜん違うんだけど、あのとき明るい視界の中で鳴らされた「Reborn」は、「バンドの終わり」を意味していて、でも今日のそれは「終わり」とは対極にあって、あのとき終わりを告げた「Reborn」が今似たような光景の中で「始まり」を告げていると思ったら、すごく感慨深くて、よい意味で打ちのめされました。もちろん生還ライブのときも「Reborn」は鳴らされていたんだけど、僕の中ではこの日の「Reborn」はまた違う意味合いなんです。なぜってこの2日間のライブで、僕はsyrupは新生したと、感じたからです。明るい調子でごまかすように、端々に、今後への決意のようなものが感じ取れて、「癒える事ない痛みなら いっそ引き連れて」というミスチルの歌詞が頭をよぎるような、開き直ったような強さを感じ取ったからです。

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音源で聴いてると「曲が変わった」って思うんですが、ライブだとあまり違和感がないんですよね。まあライブっていう筋が一本入ってるからってのもあるかとは思うんですが、もしかしたら僕らが思うほど変わってないんじゃないかって、よく分からなくもなりました。でも逆に考えれば(?)、バンド側がこれまでの曲も今の曲もきちんと自分たちの中に落とし込めているってことだと思うんです。だからきちんと「今」の自分たちで、自分たちの曲を鳴らしているっていうか。決して懐メロとかじゃなく。そういう意味でも、syrupは決してレジェンド、伝説などではなくて、「今」を生きているバンドなのだと思います。正確にいうと「今」に蘇った、というとゾンビみたいですが(笑)、でもホント見事な蘇りです。

「冷たい掌 握り直して 過去へ 連れてって
 冷たい掌 握り直して 未来へ 連れていこう」

ってなんとなく、この復活の暗喩にも受け取れませんか。

冷たくなった掌を握り直して、過去も受け入れて、そして未来へ―

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不思議なもんで、僕は彼らが解散した時のレポート(このブログにはないです)に、その後の自分と音楽とのかかわり方について、「ドラゴンボールが終わってから週刊ジャンプを読まなくなったのと同じようなことが起こるような気がする」という回りくどい表現で書きましたが、これはつまり「ドラゴンボールが終わって他の漫画も読まなくなった」→「syrupが解散して他のバンドも聴かなくなるんじゃないか」という意味でして、悲しいかなその予見は少なからず当たることになったのです。まったくとはいかないですが、他のバンドさんの音楽を聴くことから遠ざかり、そしてライブからもメッキリ足が遠のいたのです。でも今、その逆のことが起ころうとしている、というか起こる気配を感じます。

syrupの復活を確信した今、他のバンドのライブにも久々に行こうかな、なんてちょっと思ってる自分がいて、自分でもビックリです。いったいどこまでいつまで僕に影響を与えれば気が済むんでしょうかsyrup16gというバンドは! 

大好きだ! 

どうかのんびりでよいから、末永く、活動してください。切に願います。

おしまい。



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